ボラット 〜栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習〜

ボラートとカザフスタンは世界一♪

http://movies.foxjapan.com/borat/
 
六本木に出来たミッドタウン・タワーとかいう高層ビルで試写会。めちゃめちゃ高級感漂わせるビルで、いかにもセレブ(に憧れている連中)御用達って感じの場所。スカした奴らがウロウロしてたわ。若造が高級スーツなんぞ着やがって。けっ。俺なんぞはちょっと歩いてるだけで警備員から胡散臭そうに見つめられて、実にヤな感じ。腹いせに茂みでウン○でもしてやろうかと思ったけど、確実に逮捕されるだろうから諦めた。
 
でも、これが外国人だったらどうなんだろうね。我々とはまったく文化の違う外国人だったら、ビルの植え込みでウン○しちゃっても意外と許されたりするのかも。て、許されねーよ(笑)。
 
だがカザフスタン国営放送の記者としてアメリカを訪れたボラットは許された。さすが異文化に寛容なアメリカ。茂みでウン○しても(本当にしてる)、ショーウィンドウに飾られた下着姿のマネキンを見ながらオナ○ーしてても苦笑して見逃すアメリカ人。うーん懐が深いねえ…と思いきや、エスカレートしていくボラットの奇行にさすがのアメリカ人も慌てだし、最後はアメリカ人自身の本音や本性があぶり出されていく…。
 
ボラットに扮するのは、ユダヤ系イギリス人のコメディアン、サシャ・バロン・コーエン。自身のTV番組「Da Ali G Show」(英)の人気キャラクター「ボラット」として、たどたどしい英語でアメリカ市民に突撃インタビューを敢行する。
彼を本物のカザフスタン人記者と信じ、冷静に応対しようとするアメリカ市民。だがこのボラット、無邪気な笑顔でありとあらゆる政治的に正しくない言動をとり続けるのだ。女性権利団体に取材して女性蔑視発言をしたり、ユーモア教室に行って障害者ネタを自慢げに話したり、保守派政治家をゲイネタで取材したり、ロデオ大会でアメリカ国家のメロディに乗せてカザフをたたえる歌を歌ったり、南部の上流階級のディナーに黒人売春婦を連れて行ったり。わははは。実に気合いの入ったバカぶりなんである。
最初は冷静さを装うアメリカ人が、次第に理性を失っていくその滑稽さ、いかにもアメリカ的な偽善の暴かれ具合が、とにかく可笑しい。こんなに笑える映画は久しぶりだ
 
2006年11月、全米で837館という小規模上映ながら、興収2650万ドルを記録。2週連続で興収1位となり、批評家からの絶賛を受けて数々の映画賞を受賞。
 
これほど反米的な映画がアメリカ国内でウケるのも不思議だが、このモキュメンタリーで扱われる犠牲者(?)の多くが共和党寄りだってことが影響してるのかもしれない。もちろんリベラルな人々も茶化されてはいるのだが、(ブッシュ政権の支持基盤である)保守派層を茶化している時が一番可笑しいんだもん(笑)。ペンテコス派(聖書絶対主義の強硬派)の教会で意味不明の言葉(異語)を叫んだら、パメラ・アンダーソンが処女じゃないことを許せるようになったというくだりは爆笑だった。しかも「これで弟や妹も救われますか」と訊くと、ピカピカに着飾った牧師が「もちろんです!」と高らかに宣言しちゃう。だが観客は弟が知能障害を患っており、妹は村一番の売春婦だと知っている。彼らの「苦境」は大部分が社会構造的なものであって、ふざけた兄貴が「るらるらるー」て叫んで改善されるなら苦労は無いんである。しかもそれらはどれも架空の設定だし(笑)。
 
また、これはSycoさんも書いていたが、南部家庭のディナーで、ディナーの最中にウン○を持参したボラットを「異文化だから」と笑って許した人々が、黒人の売春婦を家に入れると途端に激怒し始めるんである(警察まで呼ばれる)。彼らにとっては、黒人売春婦はウン○以下なのだと分かる実に痛烈なシークエンス。同様に、「この国に奴隷がいないとは国家としての恥だ」と言われた学生が激しく同意したり、ボラットの過激な差別言動に刺激された人々が自身の中の差別意識を露呈していくのが面白い。たぶんアメリカの少なからぬ人々にとって、日本人も未だにイエロー・モンキーに過ぎないんだろうなあ。
  
批評家から絶賛され数々の映画賞を受賞した本作だが、当然ながら所謂「良識派」にはすこぶる評判が悪い。本作の中で騙されたり茶化されたりした個人や団体からは(当然)訴えられてるし、日本での公開はかなり危ぶまれていた。まあどんな理由があれ「良識派」は眉をひそめるだろうけど、過激なユダヤ差別に関していえば、ボラットを演じているバロン・コーエン自身がユダヤ人なんだけどね。また黒人売春婦と、店の品をメチャメチャにされる骨董品屋は役者(骨董品は偽物)。ボラットは人種差別や反ユダヤ主義や女性蔑視や盲目的愛国主義や偽善を、対峙する相手(もしくは観客)の鏡として体現することで笑いに転化する。確かにこれをブラック・ユーモアの極限と理解してないと、見るに堪えないだろう。
  
本作によってサシャ・バロン・コーエンにはニューヨーク州から逮捕状が発行され、FBIからの監視も受けた。製作総指揮のモニカ・レヴィンソンは実際に逮捕され、ロデオの出場者は撮影車を取り囲んでバロンのリンチを要求したという。だがモニカ・レヴィンソンはスタッフの名簿を(文字通り)飲み込んで秘匿し、バロン・コーエンは誰に対しても「ボラット」のキャラで押し通した(モキュメンタリーであるということを明かさなかった)とか。一本の映画に対する映画製作者の姿勢として、なんとも感動的な逸話なんである。ふつーそこまでしないからね。ていうか、そこまでするべき映画かどうか、ていう問題はあるけど(笑)。
 
なんにせよ、大胆で過激で下品でバカバカしくて政治的で斬新な傑作。爆笑必至。日本公開がいつまで続くか疑問だし、映画館で観たほうが楽しめると思うので、時間のある方は是非。あ、でも、お上品な「良識派」の方々は観ない方がいいです。ウン○とかチンチ○とか、いろいろ出て来ます。ベリー・ナイス!
 
五月公開。