ストリングス 〜愛と絆の旅路〜

断髪式

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これ面白い映画だわ。アンデルス・ルノウ・クラウン監督は、面白いお伽噺に必要なものを熟知しているね。即ち裏切り戦争を。
 
ただ本作は、そうしたお伽噺を人形劇という古い媒体で表現する。なんで今さら人形劇なのよ…と思ったら、「人形たちは生きていて、その世界では人形を操る弦(ストリング)が切れると死んでしまう」という設定なのだった。すげー。なんて独創的な世界観だ。これは正直驚いた。導入部から一気に引き込まれたわ。(て、これ読んじゃった人はその驚きがなくなっちゃって、ごめんなさい)
 
すべての人間は天上の糸に繋がれているマリオネットの世界。頭上の糸が切れることは死を意味し、運命の相手とは天上で糸同士が繋がっている…そんな世界のハベロン王国では、長きにわたって争いが続いていた。
 
ある夜、年老いた国王カーロ(日本語版の声:市村正親)は、暴政により人民を苦しめたことを悔い、(自ら頭の糸を切って)自害。息子のハル王子(草磲剛)に平和の道を託す遺書を残した。
しかし、それを発見した王弟のニゾ(伊武雅刀)は遺書を破り捨て、ハベロンと敵対するゼリス一族の仕業に見せかける。うーむ、解りやすい悪党だ(笑)。
 
だが単純なハル王子は、父がゼリス一族に暗殺されたと信じ込む。ハル王子は市民に変装、軍司令官エリト(劇団ひとり)を伴い復讐の旅に出る。二人だけで行くってのはどーかと思うが。
 
案の定、城の外には父王の死を喜ぶ群衆が溢れていた。旅を続けるほどに見えてくる前王の過ち=暴政の傷跡に、ショックを受けるハル。しかも家族同様の忠臣エリトは、ニゾの命によってハル暗殺を企てていた。嗚呼、世間知らずだったせいで、絶体絶命の窮地に陥いるハル王子!
そんなハルに、多くの市民から慕われる美しい女性ジータ(中谷美紀)が近づいてきて…てな話。
 
本国デンマークで公開されて以来、ヨーロッパのアートシーンで熱烈な支持を集めたという話題作。日本版は庵野秀明が監督、長塚圭史が脚色。キャスト(声優)としては、他に優香、小林克也香取慎吾など。キャスティングに疑問を感じないでもないけど、ある意味では豪華…か?
オリジナル(デンマーク版)を観てないから、どれほど脚色されたのか分からないけど特に違和感は無かった。画面に集中出来るぶん、吹き替え自体は悪くない。
 
筋立てそのものは古典的な悲劇で目新しさはないけど、とにかくマリオネットの「演技」が素晴らしい。無表情なのに(当たり前か)しっかり演技しているから不思議。映像の美しさも特筆モノだし。
しっかしCGやVFXを一切使わずに、よくぞまあこれだけの仕事をやったね。出演(?)した人形の数は115体だって。各国から熟練の人形遣いを集めた(らしい)作品なので、今現在世界で最も高度な人形劇を観ようと思ったら本作なのかも。人形浄瑠璃とかは別として。
 
人形劇の表現範囲を制限していた弦(STRINGS)を逆手に取った、不思議な「操り人形映画」。大人から子供まで、それぞれの立場で楽しめそうな一本。お奨めです。
 
でも、出来ればオリジナル版を観たいなあ。
 
4月28日公開予定。
 
追記:オリジナル版との違いはそれほど無いと判明。ただし庵野秀明監督はかなり気合いが入っていたようで、エヴァのファンが観ると、両作に通底するテーマに驚くんだとか。俺はその辺よく知らないんだけど、宣伝の担当さんが教えてくれたのでたぶんホント。