愛されるために、ここにいる

加齢臭が気になる距離

http://www.cetera.co.jp/tango/index.html
 
人生に疲れ果てた初老の司法執行官、ジャン=クロード(パトリック・シェネ)。高齢の父親は偏屈で、別れた妻との一人息子は植物栽培が好きなオタク。心通わせる相手もいない、孤独な日々。最近は身体も思うように動かなくなり、健康のためにと近所のタンゴ教室へ通うことに。
一方、結婚を目前にしながら、どこか満たされない気分のフランソワーズ(アンヌ・コンシニ)。忙しい婚約者に不安な気持ちを伝えることもできず、結婚式で披露するタンゴのレッスンへ一人寂しく通う毎日。
ある日、タンゴのレッスンでペアを組むことになったジャン=クロードとフランソワーズ。人生に疲れ果てた男と、寂しい女の人生は、その瞬間から交差しはじめるのだった…。てな感じ。
 
て書くと、なんかものすごく倦怠感あふれる話みたいだけど、そこは流石にフランス映画。大人の恋愛劇として、実に気品豊かな仕上がりとなっている。孤独を抱えた男女が出会って、突然火がついたように情熱的に求め合う、なんていうナマグサイ展開にならないのが良い。小さなことからコツコツと(〔C〕きよし師匠)、次第に高まっていく情感が、最小限の台詞と抑えた演技の中に描かれていく。独特の間がもたらす余韻は、どことなく小津作品を思わせる雰囲気だ。
一方、ドラマティックに映画を盛り上げているのが、タンゴの楽曲の数々。エモーショナルなその調が、登場人物達の微妙な距離を的確に表現している。
フランス本国では口コミでヒットして6ヶ月に渡るロングラン。すでに世界40カ国以上での公開も決定しているそうな。
 
まあ、人生に疲れ果てたという割にはパトリック・シェネは結構渋いし、フランソワーズの婚約者(リオネル・アベランスキ)も「俺が女でもこんな奴とは結婚したくないなあ」と思わせる男。この辺はいかにも観客がスムーズに感情移入出来るようなキャスティングで、明らかに女性客狙いなのがよく分かる。男女の心の機微が実に繊細に描かれてはいるけど、それもこのキャスティングだから絵になるんだろうな。
 
個人的には、主人公と父親とのエピソードが気に入った。父親役ジョルジュ・ウィルソンの名演は必見。
 
12月公開