ダヴィンチ・コード

 
ついでだから、もう一本。
この映画は原作が世界的にヒットしたせいか、配給側もかなり強気で、試写はほとんどやらなかった。原作が面白かったのでどうしても観たくて、レイトショーで観てきたが、ん〜どうなんだろうなあ、これ。
 
まず最初に言いたいのは、「マグダラとヨハネのミステリー」の著者、リン・ピクネットとクライブ・プリンスを変なところでカメオ出演させるな!てこと。どう見ても魔女とハグリッドの組み合わせみたいなこの二人を、緊迫したバス内のシーンで主人公の後ろに座らせておくなよ(あんなの気づく人は滅多にいないんだろうけど)。敵から逃れてバスで移動中というシリアスなシーンなのに思わず爆笑しちゃったじゃんか。周囲の視線が(暗闇の中でも)痛かったわ。
 
しかし、アレだね。この映画は明らかに原作を未読の人間を相手にしてないね。俺は何回も繰り返して読んでたから、逆に原作との差異に違和感を感じたけど、日本人で原作未読で、しかもクリスチャンでなければ、どこまで理解できることやら。
映画が終わった瞬間、後ろの席から「これって難しくね?」というバカっぽい兄ちゃん達の囁き声が聞こえてきて、それはまあ「お前らにとってはな」て思ったものの、彼らじゃなくても上記条件に該当する人には難解な部分が多いだろう。オドレイ・トトゥ演じるソフィーが、池に片足入れて「無理だわ。今度はワインを試してみる」というエンディングのジョークだって、劇場内のほとんどは笑ってなかったしね。キリストが水の上を歩き、水をワインに変えたという逸話もクリスチャンなら常識だろうけど、皆が皆知ってるわけじゃないでしょ。観客にキリスト教に関する知識を要求するのは、ちょっと日本向きじゃないわな。
 
それに、映画としてもいろいろ問題があるんだよね。そもそも映画というのは文字だけの小説や、動きや音のない漫画と比較してはるか大量の情報を詰め込めるんだけど、3時間という長尺を使いながら原作の半分も処理できていなかった。
まあ、それだけ情報量の多い原作だったということで、確かにあれだけのページ数の半分近くは蘊蓄みたいなもんだったし、蘊蓄系の情報って映像で表現するのは難しいんだろうけどね。そのくせ重要な部分は、観客に考える暇を与えずどんどん進んじゃうから、分かんない人はどんどん取り残されていく。
 
特に気になったのは、中途半端な回想シーン。やるならきっちりやらないと、原作読んでない人にとって、あの回想シーンだけで登場人物の過去を窺うのは無理でしょ。中途半端な(特にシリスとかの)回想なんて必要なかったと思うし、現在進行形のサスペンス・ドラマと「マグダラのマリア」の謎に迫る蘊蓄だけで構成したほうが、はるかにスッキリしたと思う。
 
しかも、
 
(以下思い切りネタバレにつき、知りたくない人は続きを読まないこと)
  
 
映画化するにあたって制作側がキリスト教会(ローマ・カトリック)関係者に配慮してるのがバレバレ。そりゃ、キリストの子孫である女性がアメリカ人男性といちゃつくとことか、犯罪の金の出所がバチカンってのは、映画化するのに多少問題かもしれないけどね。

でもさ、リー・ティービング(イアン・マッケラン)が聖杯に関する自説(聖杯=キリストの妻であったマグダラのマリアで、その秘密と子孫を守るのがシオン修道会説)を展開すると、その証拠として挙げた福音書等の存在に対して、ロバート・ラングドントム・ハンクス)が、やたらと否定的な意見を述べるってのはどうなのよ。原作じゃ二人は意気投合して次々に(彼らにとっての)「証拠」を並べ立ててたじゃんか。ていうか、そういう事を信じてるラングドンだからこそ最後は真相にたどり着く、ということじゃないの? 登場人物達がそれらを信じて行動し、次々と「証拠」を提示して見せるから、読者もいつの間にかそれを信じ込まされる…ていうのが、あの原作最大のトリックであり、読んでて面白いところだと思うんだけどなあ。中途半端な政治的配慮するくらいなら、最初から映画化するなよ。
 
と、ひとくさり文句を言ったものの、この映画を通じて多少なりともキリスト教に関する好奇心を刺激される人が出たなら、それはそれで良いことなんだろな。そういう人は、以下の本や、DVD『ダ・ヴィンチ・コード・デコーデッド』辺りをどーぞ。(このDVDは本当に面白かったです)
 

ダ・ヴィンチ・コード・デコーデッド

ダ・ヴィンチ・コード・デコーデッド

レンヌ=ル=シャトーの謎―イエスの血脈と聖杯伝説 (叢書ラウルス)

レンヌ=ル=シャトーの謎―イエスの血脈と聖杯伝説 (叢書ラウルス)

マグダラのマリアと聖杯

マグダラのマリアと聖杯

マグダラとヨハネのミステリー―二つの顔を持ったイエス

マグダラとヨハネのミステリー―二つの顔を持ったイエス

ちなみに、シオン修道会やレンヌ=ル=シャトーに関する多くのアレコレは、二十世紀になってから捏造されたものであって歴史的にまったく信頼できまない、とする説もあるそうな。ま、どっちにしても今更証明なんて出来ないしね。面白ければそれで良し。