風のファイター

極真ニダ!

http://www.cinemart.co.jp/fighter/
 
別段、隠されてきた事実というわけでもないし、知ってる人には何を今更な話だろうけど、全く知らなかった俺としては驚いた。
 
なにがって、極真空手創始者にしてゴッドハンドの異名を取った「大山倍達」が韓国人だったということ。
 
えーー。「空手バカ一代」にそんなこと書いてあったっけか〜?
俺、結構好きで読んでたけどなあ。つーか俺も含めて、俺らの世代で空手やってた人間は「空手バカ一代」=「大山倍達」だったし、(極真以外の流派をやっていても)その存在には少なからず影響されてたからね。だから今回、その事実を知ったのは、結構ショックだったのよ。
 
いや、いわゆる民族差別的偏見で言ってるんじゃないのよ。別に大山倍達がどこの国の人でも構わないのよ、そういう意味ではね。日本人のルーツ辿れば、ほとんどが遠い親戚みたいなもんでしょ。
 
でも、俺ら世代はやっぱ「空手バカ一代」で大山倍達の存在を知ったわけでさ、「日本の空手家」が世界中の武術家をやっつけて…てのが、子供心の無意識下にほのかなナショナリズムを植え付けてたわけよ。すげー!この人、日本の誇り!みたいな。
当時はまだ、アメリカって国は無条件に「スゴい」国だったからね。そこの警察や軍隊に(「日本の!」)空手を教えたり、プロレスラーをKOしたりってのがカッコいいなあ〜と。なんだ日本人だって鍛えたら強くなれるんじゃん!と。 
 
それが今になって「彼は韓国人でした」て言われるとね。しかも当時の日本武術界が彼一人に制圧された話となるとね。 子供心に感じ、そのまま持続していた「極真を含む日本武術への誇り」が、行き場を失って途方に暮れた感じになったのはしょうがないでしょ。まあ一瞬のことではあったけどさ。
しかし…昔テレビで極真の試合が流れた時、「極真空手は日本のお家芸」とか言ってたアナウンサーは、その辺解って言ってたのかね。
 
 
…と、思わずネガティブな感想が先走っちゃったけど、映画としての出来は結構良かったです。
大山倍達=チェ・ペダル=崔倍達 をモデルにしてるけど、大半は良く出来たフィクションだったし。脚本がしっかり練られていて、ドラマそのもので充分に観せるのよ。
実在の人物をモデルにした映画は、その人物のキャラクターに頼り切った感じに陥り易いんだけど、本作は映画作りの努力を惜しんでない点が偉い。
 
まあ、倍達が姫路城で戦う相手が忍者だったり(「007は二度死ぬ」以来の国辱シーン)とか、平山あや演じる芸者の耳にピアス穴があったり(いつの時代だ)とか、韓国人役者が日本のヤクザを演じてて明らかに発音がおかしい(「けいさちゅだ!」て…)とか、空軍将校が前髪伸ばしてたり(花形満みたいな髪型)とか、外国が日本を描く時にありがちなミスは沢山あったけど、そーゆーのはもう仕方無いからねえ。悪意がないなら許すしかないでしょ。
 
ちなみに主演のヤン・ドングン以外でアクション・シーンを演じる役者は全員武術の有段者で、彼らの段位を合計すると1700段だとか!(実力と段位は必ずしも比例しないんだけど)
すげー!と思ってよく聞いたら、エキストラ込みで1500人て。ほとんどが初段程度なのね。
ていうか肝心の主演だけがド素人でいいのかよと思ったけど、これが実に巧くて驚いた。ヤン・ドングン、本職がラッパーにしては、なかなかの身体能力だわ。
 
 
物語は16歳のペダル(倍達)が少年飛行士を夢見て、日本に密航してくるところから始まる。
しかし、少年飛行隊に入った直後(日本の学徒出陣によって)隊そのものが無くなり、いきなり挫折。
少年飛行士改め非行少年となってからも、日本人による朝鮮人差別によって悲劇の連続。仲間と始めた露天のパチンコ屋はヤクザに壊され、米兵に絡まれていた女を助けたことから指名手配され、久しぶりに出会った恩師までヤクザに殺される。「力のない正義は無力であり、正義のない力はただの暴力だ」と気付いたペダルは、武術の腕を磨くことを決意するのであった。
  
てな感じで、紆余曲折あってかの有名な山ごもりとなるわけだが、ここの描写が良い。修行中に心が折れて山を降りられないように眉毛を片方ずつ剃るとか、自然石を手刀で割ったりとか、親指一本で逆立ちしたまま腕立て伏せするとか、俺らが昔驚愕した数々の「伝説」がスクリーンに蘇る。「空手バカ一代」世代が、間違いなく興奮するシーンね。
 
かくして修行を終えたペダルは、かつて自分をバカにした日本武道界に対し挑戦状を叩きつける。強いと言われる日本中の武術家を訪ね、道場破りを重ねるペダル。柔術、柔道、空手、合気道、剣道、あらゆる強豪を撃破していくペダルは、やがて「大山倍達」として、その名が世間に知られるようになっていく。
 
ここら辺の流れに、「頭は低く目は高く、口慎んで心広く、孝を原点として他を益する」という極真の精神を見ることができるかどうかは人それぞれだろう。まあ極真会館の全面協力を得て作られた映画だけに、少なくとも「ペダルの復讐物語」という形にはなっていない。どっちかというと武侠映画ぽいかも。
 
でもって最後は当然、加藤率いる武術家一派との決闘(いわゆる武蔵野血戦ね)。このシーンの迫力はタイ映画並。ワイヤーなし、CGなしの本格アクションが素晴らしい。格闘技未経験者にしては、よく頑張ったねヤン・ドングン
 
とまあ、日本人としては複雑な感慨がないわけではないが、映画としては面白いので、観て損はないかと。
 
追記:DVD化されますた

風のファイター 完全版 [DVD]

風のファイター 完全版 [DVD]