キング・コング

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最近、ネット上で新作映画の海賊版がかなり出回ってる。日本でまだ試写もやってない段階から、(有志による)字幕付きの最新映画が観れちゃったりするし。そのかなりの割合が、カムと呼ばれる試写のスクリーンを隠し撮りしたものだったりするから、配給会社としては神経質にならざるを得ない。それは解る
 
でもさあ、マスコミ向けの完成披露試写で、あそこまで徹底したセキュリティ・チェックってのはどうなのよ。
一応、まあ、あくまで建前であっても、こっちはゲストでしょ?パブリシティを狙ってマスコミ関係者を集めてるわけでしょ?「是非ご高覧下さい」とかなんとか言って集めたわけじゃんか?
その「ご高覧者」にさあ、携帯電話の電源を目の前で切らせて、それを小さな袋に入れて、プラスティックの結束バンドで縛るってのはやり過ぎなんじゃない?
「帰りにはハサミを用意しておきますから自分で切って下さい」て、そっちの都合で縛ったんなら、そっちが丁寧に袋から取り出して「ご協力ありがとうございました」と返すのがじゃないの?
 
しかも、金属探知機で全身チェックして、ポケットの銀紙までいちいち取り出させてさあ、俺ら犯罪者かよ。身元の判明しているマスコミ試写で、テロやる奴がいるってか。ていうか、狙いは盗撮防止だろうけど、それにしてもやり過ぎだってば。ポケットのゴミまで出させるなよ。恥ずかしいから。
 
更に、PC、カメラ、録音可能な音楽プレイヤー等を没収し、「当方で保管しますが、紛失、破損等には一切責任を持ちません」て。いやいやいやいや、おかしいでしょ、それ。あんたら誰を呼んでるのよ。今時のマスコミ関係者が、PC、デジカメ、ICレコーダーなんかを日常的に持ち歩いてるのは普通よ。つーか仕事道具だっちゅーの。それを取り上げといて、責任持ちませんてのは変でしょ。責任持とうよ。
 
かてて加えて、そんだけイライラさせておいて、「本日は全館禁煙です」とはナニゴト?
日頃から迫害に耐えている「大人しい日本の喫煙者」たる俺も、さすがに切れかかったよ。そばに立っていた誘導兄ちゃんに「どーゆーことよ」と詰め寄ったら、「僕も今朝から吸えないで立ちっぱなしなんですよ」と。そりゃ可哀想だねえと一気に同情して、しばし談笑しちゃったじゃんか。違う違う、俺は怒りたかったの!
 
上映一時間前に入っちゃったから、トイレくらいしか行くところもないしさ。3時間オーバーの映画だし、念のためもう一度おシッコしておこうと二回トイレに行ったら、入り口の警備員が俺を睨みながら襟元のマイクに向かって何かコソコソと。聞き耳立てたら、「同じ人がまた入ります」て。なんだよ、いいじゃんか何度トイレに行こうと!暇なんだよ!つーか、お前はもっと暇だろ。そんなとこまで監視すな。怖いわ。
 
てな感じでイライラしてたらようやく上映アナウンス。簡単な挨拶があって、そのあと「なお、映像効果のために非常口の誘導灯を切りますから、いまのうちに非常口を確認しておいて下さい」て。いやいやいやいや、誘導灯切るのは賛成だけど、なんか非常事態になったら灯り点けろよ!真っ暗な中で逃げろってか。誘導灯の意味無いじゃんか!
 
はあ。ここまで書いてて疲れちゃったな(笑)
 
で、本編の感想。
 
宇宙戦争」の試写の時に本作の予告編が入って、ピーター・ジャクソン監督が「僕はこの映画が作りたくて監督になりました」とか言ってたのよ。
嘘つけ。あんたメジャーになる前はメチャクチャなスプラッタ作家だったじゃん。それはそれですんごく面白かったけど、どう見ても「キング・コング」が作りたいって感じじゃなかったよ〜と、そのときは思ったもの。特に、33年版の「キング・コング」を完全リメイクて柄じゃなかったのは事実だし。
 
なので半信半疑で観たのだが、途中で「なるほど、こういうことか」と妙に納得。
そもそもピーター・ジャクソンって、「健康的悪趣味作家」なんだよね。サム・ライミとかスチュアート・ゴードンとかと同じで、観客を怖がらせつつ楽しませることを意識した職人系。観客が許容できる範囲の悪趣味を計算できるつーかね。根本的にはヒューマニスト。考えてみりゃ「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズだって、なにげに悪趣味描写はあったし。
というわけで本作もやっぱり、あくまでピーター・ジャクソン節の「キング・コング」。ゲテモノ・クリーチャー撮ってる時が一番楽しんでたんだろうなあ、てのがすごく伝わる映画だ(笑)。それがやりたかったのね。
 
キング・コング [DVD] そもそも33年版の「キング・コング」て、人権だの動物愛護だのといった概念が今ほど浸透してなかった頃の作品だし、すごく冷酷な映画だったと記憶している。あの時代にコングが現れたら、当然ああいう扱いを受けただろうな、というのが普通に想像できるしね。ていうか、そうじゃないとあの話は成立しないもん。あれはあくまでフェイ・レイの「美しさ」によって人生(猿生?)を狂わされた醜男の悲劇なのよ。ノートルダムのカジモドが怪獣だったら、ていう話でしょ(違うか)。
 
でも、今作では案の定、コングに対して徹底して残酷になれる登場人物がいない。まあ、それが映画の時代性なんだろうけど。一番冷酷じゃなきゃいけないカールも、単に映画作家としての情熱に突き動かされている楽天家だし。ていうか、カール役をジャック・ブラックに配した意味がようやく解ったわ。エキセントリックで自分勝手でありながら、冷酷さは感じさせない、という役にはぴったりだもんね。
 
ただ、それによって、33年版というより76年版に近くなっちゃった。悲劇的な愛の物語を描こうとして、結局文明批判になった感じ。この映画は、そこまで風呂敷を拡げないほうが良かったんじゃないかな。それだとラストの悲劇性が薄れちゃうのよ。報われない愛に翻弄される怪獣てのが、やっぱ悲しいでしょ。
 
とはいえ、大部分は映画本来の「見せ物」性を重視したエンターテインメント大作。決して面白くないワケじゃない。いかにも冒険活劇な展開にはワクワクするし、髑髏島の密林に住む恐竜や、巨大な虫やコウモリといったクリーチャーたちは、まさにピーター・ジャクソンの本領発揮。ロード三部作で登場した全てのクリーチャー(の合計)より、本作一本に出てくるクリーチャーのほうが多いっていうのには笑える、じゃなくてすごく満足できた。
 
更には恐竜とコングの死闘、恋愛ドラマ、お色気・・・あ、お色気で思い出した。ナオミ・ワッツがキャミソールみたいなの一枚でジャングルを走り回り転げ回るんだけど、どんなシーンでもほとんどパンツが見えないのよ。いや、見たいワケじゃ…なくもないけど、それ以前に、ありえねーだろそれ。あんだけ泥の中を転げ回って顔しか汚れないて。
 
あ、ありえないで更に思い出したけど、大量の虫に襲われている男を、別の青年がマシンガンで助けるんだけど、それ絶対人間にも当たっちゃうってば。なんで当たらないのか不思議だったわ。
 
あ、不思議だったでまたもや思い出したけど、プレシオサウルスみたいな恐竜の群れに追われる十数人の捜索隊が凄かった。岩で囲まれた道を、殺到する巨大恐竜の足下を縫うように逃げまどって2、3人しか踏みつぶされない。他の連中は恐竜と競争して勝っちゃった(笑)。
荒唐無稽な話こそ、そーゆー細かいところのリアリティが大事だと思うんだが、まあそれがピーター・ジャクソンピーター・ジャクソンたる所以か。大金持ちになったんで、とことん好き勝手に作ってみました、という感じが素敵です。
 
てな感じで、細かいこと気にしなきゃ充分過ぎるほど楽しめる一本。
ただし、事前にトイレは行っておくこと。3時間8分は、かなり長い。
 
追記:DVD化されますた