バットマン ビギンズ

デスクからメールで、「是非、観て書いてくれませんか」と。
へへへ。そう言われちゃ断れません。というわけで日比谷のワーナー試写室へ。
そういえば、来年後半あたり俺の勤め先も、本社機能をこの辺に移動するのだった。システムの移動とか、きっと忙しくなるんだろな。この辺はいかにもオフィス街で、人も車も多いし、ビル風が強いのがどうも気にくわないんだが。
 
まあ、そんなことはともかく、ワーナー試写室。
ワーナー本社なのか宣伝会社の人間なのか、ここはいつも受付の態度が素っ気ない。名刺渡してるのに名前も書かせるし。意味あんのか、それ。確かにこっちは無名で影響力もないチンケな兼業ライターではあるけどさ。ほっといてもヒットする映画ばかり揃えられるところは強気だな。
 
いや、それもどうでもいいか。
 
えと、アメコミのバットマンが生まれて既に60年余。ついに完全オリジナル脚本による映画が誕生した。まあバットマンの成り立ちにまつわるコミックは幾つかあるんだけど、それらを踏まえつつ、クリストファー・ノーラン(監督・脚本)とデイビッド・ゴイヤー(脚本)のコンビがまったく新しい物語を生み出した。

http://www.jp.warnerbros.com/batmanbegins/
 
ゴッサムシティで大富豪の息子として育ち、何一つ不自由なく暮らしていたブルース・ウェイン少年。ある日、自宅の庭で古い井戸に落ち、コウモリの大群に襲われる。以来、コウモリは彼の恐怖の象徴として植え付けられる。
その後、ネタばれというか観る人の興味を削ぐと悪いから書けないが、なんだかんだとあって両親が殺害される。両親の死に責任を感じ続けながら成長するが、復讐の道も別の犯罪者によって閉ざされてしまう。腐敗しきった司法機関にも嫌気がさし、街を捨てて旅に出るブルース。

犯罪撲滅の道を探るため、ブルースは自ら裏社会に身を投じ、犯罪者心理を学びながら世界を転々とする。そしてブータンの刑務所で一人の男と出会う。
その男、リーアム・ニーソン演じるデュカードに導かれ、悪を憎む「影の軍団」の修行を受けるブルース。この「影の軍団」の総帥が渡辺謙ね。
 
で、またいろいろ割愛するけど、負の感情を糧として生き、非情になりきることを拒否したブルースは、「影の軍団」を去ってゴッサムシティに戻ることに。
 
ん。ここまで観ていて、どっかで観た気がするなあ、と思った。
 
リーアム・ニーソンに見出され、超人的な力を身につけた青年が、負の感情(ダークサイド)の誘惑に悩む・・・。ん〜その誘惑に打ち勝ち、ダークヒーローとなったのが「バットマン」なら、誘惑に負けたのが若きアナキン・スカイウォーカー、後の「ダースベイダー」ではないか。
ダークサイドがもたらす強烈なパワーの誘惑に勝った者と負けた者、それぞれの物語が、同時期の大作として公開されるというのは興味深い。しかも、それぞれの物語は、過去に公開されたシリーズ第一作に直接結びつく物語でもある。どっちかがパクったという話ではないが、物語の基本となる部分に共通点が多くて面白い。
まあ、悪の誘惑と闘う、というのは西欧では普遍的なテーマだけどね。主人公が誘惑に負けてしまうというスターウォーズ3にしたって、後の「スター・ウォーズ トリロジー」で(息子によって)修正されていくわけだし、結局はその誘惑に打ち勝つ者だけが真のヒーローとなれる、というスタンスは変わらないのだ。どっちつかずの「もののけ姫」みたいな作品は、ハリウッドじゃ無理だもんね。
その後のストーリーは、ヒーローものの王道。アクション映画として充分楽しめる仕上がりなので、そこらへんは見てのお楽しみということで。
 
この映画で特筆すべき点は、徹底したリアリティ。バットマンが使う戦闘ツールの一つ一つに理由付けがなされ、バットモービルに至っては本作の撮影のために「本物」まで作る念の入れよう。カーチェイスのシーンは、実際に時速180キロでシカゴの街をぶっ飛ばして撮影したというから恐れ入る。手裏剣みたいな「バッタラン」(Bat-A-Rang または BATARANG。一般的には「バットラング」と表記されるが、配給元のプレス表記に従う)を、バットマンが一個ずつグラインダーで研磨しているシーンは何となく可笑しかった。
リアリティ重視だから、どれも実用的というか機能的なんだけど、ティム・バートンがせっかく再現したバットマン的な美学はちょっと後退。
 
あともう一点、出演者の力量が物語に厚みを与えているのは事実。
青年バットマンに、「マシニスト」で骨皮筋衛門(古いか)を演じたクリスチャン・ベール。あのガリガリ状態から今度は37キロ増量して筋肉マンに。どうやったらそう自在に体重をコントロールできるのかね。
ウェイン家の執事として、ブルースの親代わりでもあり唯一の理解者であるアルフレッドに名優マイケル・ケイン
難役デュカードにリーアム・ニーソン
幼馴染みで今も想いを寄せる女性レイチェルに、「エイプリルの七面鳥」のケイティ・ホームズ
バットマンの協力者となる気の良い警官役はなんとゲイリー・オールドマン。どう見たって「気の良い」イメージじゃないけど、だんだんそう見えてくるから不思議。
恐ろしい精神科医クレインを演じるのは「28日後...」でブレイクし、「ダブリン上等!」でグレービーソース入り紅茶を飲んでいたキリアン・マーフィー。この配役はドンピシャだったな。いかにも冷酷な医者って感じが良く出てた。
ウェイン社を乗っ取ろうとしてる強欲副社長アールはルドガー・ハウアー。かつての「レプリカント」も歳を取り、こんな役がすんごく似合う。喜ぶべきことかどうかは分からんが、最初のうちは、ルドガー・ハウアーだと気づかなかったもん
バットマンに戦闘ツールを提供する科学者フォックスに、モーガン・フリーマン
そして実を言えば最後まで謎の存在だった「影の軍団」総帥(?)ラーズ・アル・グールが、渡辺謙
なかなか豪華な布陣でしょ。
 
これまでバットマンシリーズを観てきた人は勿論、ヒーローものが好きな人には結構お勧め。ただし原作ファンの人には、フランク・ミラーのスピリットが完全に活かされているとは言い難い、とお伝えしておきたい。
バットマンって、結局は普通の人間だから、なんとなく自分でもなれそうな気持ちにさせてくれるのが男の子的には嬉しいやね。単純に。
 
追記:DVD化されますた

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