酒井家のしあわせ

わかりやすい反抗期

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酒井家は、正和(ユースケ・サンタマリア)と照美(友近)、中二の次雄(森田直幸)、五歳の光(鍋本凪々美)の四人家族。多少複雑な関係(照美は再婚で、次雄は照美の連れ子)ではあるものの、ごく「普通の家族」だ。
そんな酒井家に、小さな事件が起きる。父・正和が突然家を出ると言い出したのだ。その理由は「男を好きになったから…」。驚き、戸惑う家族たち。中でも次雄は、どうしてもそれが真実だとは思えない。(そりゃそうだろね)
すったもんだの末に事の真相を知った酒井家は、互いの想いをぶつけ合いながらも、その絆を深めていくのであった…てな話。
 
ん〜。プレスに監督の言葉として「笑いで涙をサンドした映画を作りたかった」、みたいなことが書いてあったけど、ちょっとパン(=笑い)が薄かったかな。ていうか(=涙)が大きすぎたか。サンドイッチの中身を「具」と言うのかどうか知らんけど(なんて言うの?)。とにかく「笑い」に関しては期待してたほどじゃなかったわ。
とはいえ、パンの薄さを具の大きさで補っているから、映画としてはそれなりに楽しめた。具は大きいだけじゃなくて質的にもなかなか。多少ぎこちなさは感じたけど、「家族」の優しさは充分伝わってきたし。
 
驚いたのは友近の演技。いつもの一人コントみたいになるのかなあと思ってたら、きっちり役にハマってた。意外と巧いのね。濱田マリ、三浦誠己、赤井英和本上まなみといった共演陣もしっかり脇を固めてたし、キャスティング的には大成功でしょう。
 
監督は呉美保=オ・ミポ(29歳)という女性。本作が(劇場公開長編作としては)監督デビュー作。
 
しかし最近は新鋭女性監督の活躍が目につくね。『幸福のスイッチ』の安田真奈監督とか、『ゆれる』の西川美和監督とか、『かもめ食堂』の荻上直子監督とか。新鋭と言って良いのか微妙だけど『無花果の顔』の桃井かおり監督や、『赤い鯨と白い蛇』のせんぼんよしこ監督も長編映画に関しちゃ新人だし、女性監督が次々と…てな印象。しかもどの映画もそれなりに面白いし。
 
ま、考えてみりゃ当然か。ジャンルにも依るけど、日本映画に多い「恋愛」とか「日常」といったテーマを撮るなら、女性の視点のほうがリアルで繊細な気がするしね。これまで少なかった方が不思議だわ。ただ本作の場合、テーマが「家族」だからね。女性云々以前に若さが前面に出ちゃうと「良いお話」以上の実感が伝わらないのよ。家族を語るには、自分自身が家族を持ってある程度の年月を経ている必要もあるんじゃないかと。ていうか、人間てのは中年を過ぎて発達する能力ってのがあるらしくて、判断力、洞察力、観察力なんてのはその最たるものだとか。だとすると、この手のテーマはもう少し年配の監督が向いてるんじゃないのかなあ…と思ったり。
 
あと、一つ気になるのは、本作が三重県を舞台に「家族愛」をテーマにした「新人女性監督」による「笑いと涙のホームドラマ」で「本上まなみ」出演の、タイトルが『酒井家のしあわせ』…てな部分が、安田真奈監督の『幸福(しあわせ)のスイッチ』とびみょ〜にかぶること。勿論どれも偶然だし些細なことなんだけど、公開順的な面もあるし、興行的にどう影響するのかなあと。いや、余計なお世話だけどね。
 
12月公開。ゆれる [DVD] かもめ食堂 [DVD]
 
追記:原作送ってもらったら、これが結構面白かったので↓

酒井家のしあわせ (竹書房文庫)

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