幸福(しあわせ)のスイッチ

稲田三姉妹

http://www.shiawase-switch.com/
 
東京のデザイン会社で働く新人イラストレーターの怜(上野樹里)。
新人のくせに仕事にいちいち芸術性を持ち込んで上司と衝突。ついには会社を辞めると飛び出し、取りなしてくれようとした優しい彼氏には悪態つきまくり。仕事に対するプロ意識を持てず自分の要求ばかり主張して、相手に正論で咎められても謝ることすら出来ない。て、どこでもいるのね、こーゆー子。一言謝れば済むものを、意地を張ってるから次の仕事も見つからず、やがて借金に手を出して借金取りに追い込まれ、風俗に沈められて、それでも今度はホストやシャブに貢いで破滅の王道一直線。可哀想だけど自業自得。
 
て、そんな酷い話じゃないよ(笑)
 
会社を飛び出した怜は、実家からの手紙で急きょ帰省することに。
 
実家は和歌山県田辺市の小さな電器屋「イナデン」。帰省早々、店の手伝いを頼まれる怜。
ちなみにこの「イナデン」、地域全体のマーケット情報(顧客情報・購入履歴)を持ち、地域密着に徹するなかなかの商売上手。実際、かつて量販店に押される一方だった電器小売店が最近復活しつつある(ここ数年で10%近い増収に転じているらしい)のは、こうしたきめ細かなサービスが見直されてきたからだと言われてるしね。
 
もっとも、怜にとってはそんな父・誠一郎(沢田研二)の経営方針は「儲けにもならない仕事ばかり引き受ける」ようにしか映らない。母が亡くなったのも仕事一筋の父のせいだったと思いこんでおり、父親とはとかく折り合いが悪いのだ。そんな父を手伝うことに気の進まない怜だったが、優しい姉・瞳(本上まなみ)、天真爛漫な妹・香(中村静香)の二人から頼み込まれ、生活費をカンパするという申し出にもつられて、渋々承諾。かくして、頑固オヤジと三人姉妹の、笑いと涙のホーム・ドラマが展開していくのであった。てな感じ。たぶん。
   
前半はとにかく怜の不平・不満・愚痴のオンパレード。自らの不幸を嘆いてばかりの女って、普通だったらかなりウザいだろうなあ。上野樹里は可愛いから許すけど(可愛いって得だな〜)。
 
ただし、タイトルからも解るように、中盤以降はそんな怜の精神的な転換が描かれていく。
物事を否定的、後ろ向きにしか見られなかった彼女に、前向きで肯定的な視界のスイッチが入るわけ。幸せ、不幸せってのは心の有り様だからね。物事の良い側面を認識できれば幸せだし、悪いとこばっかり見てれば(見ようとしてれば)不幸だと感じるだろうし。逆さまに入っていた電池を入れ直して、ちょっとスイッチを入れてやれば、壊れた(ように見えていた)オルゴールも動き出すのよ(分かりづらい喩えだけど、この映画を観たら分かります^^;)。家族の絆も、くっついたり離れたりだしね。
 
まあ、なんつーか、ここ最近の日本映画で、ここまでストレートなテーマを、ここまでストレートに描ききった作品は珍しいね。大人版「中学生日記」かよ!て感じ。でも、何の衒いもなく堂々とこれをやって、ここまで観客の心をつかむのは並大抵の力量じゃできないこと。素直に笑わされて、最後は泣かされたし!くそ〜流石は安田真奈監督。やられたわ(笑)。
 
というわけで久々にマジお奨めな日本映画。あ、一つ難を言えば、105分はちょい長いかな。テンポがよいので冗長さは感じなかったけど、あと10分切れたら更に良かった気はする。好みの問題だけど。
あと更に関係ない話だけど、上野樹里って可愛いし『スウィングガールズ』の頃より格段に巧くなってるけど、早くもキャラが固まってきたような。どことなく小林聡美の若い頃を見ているような気がしてならなかった。いや小林聡美が悪いって事じゃなくてね。
なんにせよ、観て損のない映画。男女問わず色々共感できることも多いと思うので、時間のある方は是非。10月頃公開予定。
 
ちなみに今回の試写は、安田監督自ら連絡頂いて、試写状まで送って下さった。某SNSでは「お友達」になってくれたし、我が家の長女と名前が似てるし(笑)、なんとも親しみやすい素敵な方である。「お客様第一」をモットーとするイナデンの主人は、もしかしたら監督自身の投影なのかも。ここを読んでるかどうかは不明だけど、今後も心温まる日本映画をたくさん作ってね。