ブロークン・フラワーズ

http://www.brokenflowers.jp/
 
ジム・ジャームッシュ久々の長編監督作。
  
IT産業で一財産を築いたドン・ジョンストン(ビル・マーレイ…老けたなあ)。
若い頃は多くの女性と浮名を流したまさにドン・ファンだったが、最近はすっかり精気が抜けて、どことなく情けない中年男。結婚に消極的だったため同棲してた若い女にも逃げられ、豪邸の中でただ一人、ジャージ姿でゴロゴロするドン。話し相手は隣に住む子だくさんでミステリー好きのウィンストンのみ(哀)。
 
そんなドンに一通の手紙が届く。
 
「20年前に別れた後に気付いたんだけど、実は妊娠してたの。一人で産んで育てて今19歳になる男の子がいる。あんたの子。彼は二日前急に旅に出た。たぶん父親探しの旅に出てるんだと思う。そっちに行ったらよろしく」みたいな。
 
衝撃的な隠し子発覚! て、本人も知らなかったから隠され子か。
 
ピンクの封筒にピンクの便箋。タイプライターで打たれた手紙は、差出人の名前も住所もなく、消印も読みとれない。
隣人ウィンストンに見せたところ、ミステリー好きな彼はその謎に大興奮。
早速20年前にドンが交際していた女性達の住所を調べ上げ、航空機のチケットからレンタカーの手配まで、ドンの調査旅行をお膳立てしてしまう。(キング・オブ・お節介である)
 
嫌々ながら、それでもやはり好奇心に負け、過去を巡る旅に出るドン。
かくして、20年前に終わった「元カノ」たちの家へ押しかけ、さりげなく息子の存在や「ピンク」が好きかどうかなどを調べなければならない奇妙な旅が始まるのであった。
 
てな感じ。
 
と書くと、なにやらドタバタ・コメディーのようだが、実際は(全編通して大らかなユーモアの中に描かれるものの)、一人の中年男が過去に向き合う姿を描いた、非常にまっとう、かつ味わい深い作品である。
ドンが真剣であればあるほどシチュエーションとしては可笑しくなってくるが、最後は妙に切なくさせる絶妙な構成。ジム・ジャームッシュらしいロードムービーといえよう。
 
ちなみにドンが調査に向かう「元カノ」(を演じる女優)は計4人(プラス1人の故人)。
 
最初の一人はシャロン・ストーン。47歳という実年齢そのままに、(ドン同様)中年の悲哀をコミカルに演じている。
二人目はフランセス・コンロイウディ・アレン映画では常連の一人。夫との仲睦まじい生活に、突然現れた「元彼」に落ち着かない女性役。ちょっとヤバめの神経質な演技は流石。
三人目はジェシカ・ラング。おお、ギラーミン監督版「キング・コング」のヒロインがこの時期になんとタイムリーな(そうでもないか)。実年齢は56歳だけど、相変わらず美しいね、この人は。本作では動物とコミュニケーションできるという、なんとなく70年代的というかシャーリー・マクレーン的匂いがする博士役。
で四人目がティルダ・スウィントンデレク・ジャーマン映画の象徴的存在として知られる個性派女優。ていうか一般的には「オルランド」でのオルランド役で有名になった人。本作では山の中でバイカー達と暮らしているという、また変な役。
 
と、この映画はビル・マーレイ演じるドンが、個性派女優演じるそれぞれ個性的な女性達とどう向き合っていくか、という状況そのものが(演技合戦を含めて)大いに見もの。それぞれが顔を合わせることはないが、ベテラン女優陣の素晴らしい「競演」は見応え充分。
 
テンポが良くて軽やかで、それでいて味わい深く心に残る映画。2005年カンヌ映画祭のグランプリ受賞も納得の一本でした。
 
でも…(以下、思い切りネタばれ。本作を観たい人は読まないように)
 
 
結局最後まで誰の子か判らないってのは消化に良くないだろ〜!
つーか、最後に思わせぶりに目を合わせた青年が息子なのかも、わかんないままだし。
 
まあ、それがテーマの映画じゃないのはわかるけどさ、調査旅行の過程を見せただけって…あんまりよ。せめてなんかヒントくらいくれてもいいじゃんか!ケチ!
とりあえず面白かったから許すけど。
 
追記:DVD化されますた

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