あおげば尊し

http://www.aogeba.com/
 
直木賞作家・重松清の同名小説を、『病院で死ぬということ』の市川準監督が映画化。
 
末期がんを宣告された元中学校教諭の父(加藤武)を、自宅で介護することにした光一(テリー伊藤)。
小学校教諭である光一は生徒たちに死の意味を教える為、死期の迫った父の介護を手伝わせるという「課外授業」を思い付く。だが、自主的に参加したのは、父親を亡くして以来、死に異常なほどの関心を寄せる田上(伊藤大翔)だけであった。
  
てな感じ…かな。本当はそこに教師としての生き様とか、あれこれかぶせようとしてたみたいだけど、まあメインは死にゆく親を自宅介護する光一の物語。
 
そういえば丁度去年の今頃だったなあ、うちのお袋が末期がんを宣告されたのも。
最後は「病院で死ぬということ」になったけど、自宅介護の期間もあったし。いろいろ大変だったなあ、てことを思い出させる映画だったわ。
その経験と照らすなら、この映画は自宅介護に伴う本人や家族の痛みを描き切れていない点がちょっと惜しかった。それがテーマじゃないから仕方無いんだろうけど、末期がんの残り三ヶ月でしょ?普通、あんなに穏やかな介護なんてないっつーの。末期がんて大抵の場合激痛が伴うし、それを取るためにモルヒネ打てば意識も飛んじゃうしさ。
本作ではたぶんモルヒネを入れ続けてる想定なんだろうけど、それだと末期の末期にあれだけしっかりした意思表示は出来なくなってるでしょ。まあ映画だから、そうしないと終わらないんだろうだけど。
  
それはともかく俺が一番気になったのは、教師・光一が、生徒達に「死に関心なんか持たず生を考えろ」と諭してたこと。
ネットで死体を扱うようなサイトを見たり葬祭場に通ったりと、真剣に「死とは何か」を模索している田上少年を、大人も子供も揃ってキモオタ扱いしてたのも気になった。ん〜確かにそう見えるかもしれんが(笑)。
 
でも生と死は表裏一体でしょ。死を想わずして生の価値など解るはずないじゃんか。メメント大盛りってやつよ。
その矛盾を突くのが田上少年だけ、というのは印象的だったな。実は彼は幼少時に父親を亡くし、最後の別れをしないまま葬儀を終えてしまったことを悔やみ続けているという設定。だから田上少年にとっては、死というものが何であるかを知ることはとても重要だったのだ。て、それは解る。それは解るが、田上少年の執着ぶりによって逆に他の子供や大人たちの、死に対するあまりにも無頓着な精神状態が浮き立つワケ。それが狙いなのかもしれんけど。なんで大人たちまで死を語ることをタブーにしちゃうのかなあ、と。
まあ、死が日常から隠されているというか、死を意識する機会の少ない現代を象徴する、まさに「等身大の家族の肖像」ではある。
 
自宅介護があまりにもスマートなので感情移入しずらかったが、ラストは無理矢理泣かされた。あれはずるいでしょ。ずるいよ。
 
あ、あと妻役の薬師丸ひろ子と、老母役の麻生美代子サザエさんのおフネさんの声の人ね)が良かったです。
 
追記:DVD化されますた

あおげば尊し [DVD]

あおげば尊し [DVD]