ライディング・ザ・ブレット

 
スティーブン・キング原作の「ホラー版・スタンド・バイ・ミー」(プレスにそう書いてあるんだもん)
http://www.ridingthebulletmovie.com/
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=322450
 
スティーブン・キングの「ホラー小説」は大量に映画化されているけど、実際問題としてそのほとんどが失敗作。
て、そう思わない人もいるだろうけど、キング・ファンの俺に言わせれば、原作の面白さを巧く表現できている映画は(ホラー限定とするなら)、キューブリックの「シャイニング」とブライアン・デ・パルマの「キャリー」、あとクローネンバーグの「デッド・ゾーン」くらいのもの。
もっとも「シャイニング」はキング本人が最も気に入らない作品だとか。どうやらキングは、映画というものをあんまり解ってないのかもしれん(^^;)。
 
もともと映像化が不可能なくらいのイメージを紡ぎ出すからこそ、彼の小説は人気があるのであって、それを無理矢理「原作に忠実」に描いたり、着想だけを利用したりしていくと、どうしても陳腐なモノに成り下がる(「炎の少女・チャーリー」しかり「バトルランナー」しかり「マングラー」しかり。TV映画「ランゴリアーズ」の腰が抜けそうなラストしかり!)。
それに、ディテールに拘った人物描写こそがキングの真骨頂だとすれば、2時間足らずの映画ではホラー描写に時間を取られて人間を描ききれないというのもある(その証拠に、先に挙げた「ランゴリアーズ」は、TVのミニシリーズであるが故に人物描写に時間が割け、終盤まではメチャメチャ面白い。「IT」も同様)。

スタンド・バイ・ミー」や「ショーシャンクの空に」といった(非ホラーの)映画化が大成功を納めていることからも、キングの小説はその面白さも怖さも、緻密な人物描写が鍵といえるのだ。
 
と、好きな作家なので前置きが長くなったが、結論から言えば本作はキング原作では久々の映画化成功作である。
そして本作もこれまでの傾向通り、「非ホラー映画」であるからこそ成功した作品と言える。ホラー(恐怖)の要素はたっぷり詰め込んであるが、人を怖がらせることに主眼を置いた作品ではないのだ。
 
て、矛盾しているようだけど、実は本作、キングが瀕死の事故に遭い、その復帰第一作として書かれた短編が原作となっている。
臨死体験をしたキングは、そうした体験者たち(大病から回復した人とか)同様に、「生きていることの有り難さ」を心底実感したようだ。
映画中でも語られる、「限られた人生を輝きのある時間にするべきだ」というテーマをここまで明確に掲げた作品は、事故以前の作品には存在しない。
とはいえ、そこはホラーの帝王・キングのこと、直球ヒューマンドラマにはせず、死に魅了されている青年の、恐怖の一夜を通じて表現してみせた。キングとしては、そのテーマを「ホラーの帝王」の立場から表現することに意義があったのだろう。

主人公の悪夢で繰り返される「(恐怖を)楽しむのと本当の死は別物」という台詞は、恐怖の帝王として君臨したキング自身が現実の死を体験し、「いやあ現実に死にそうになるとマジ怖いよ!」と叫んでいるようなものかも。
そんな、どことなくこれまでの自分を総括しているような内容だから、そこで描かれる「恐怖」は確かに見た目は怖いが、死をなんとなく美化して考えていた主人公自身の「内なる怯え」に過ぎない。映画内で描かれるグロテスクな恐怖は、観客よりも主人公を怖がらせるために存在しているのだ。
 
てなわけで、ここで描かれる恐怖は、主人公が実は何を恐れているかを表現している。ホラー描写がそのまま人物描写になっているのは、実に巧い手法だよね。
問題は、ストレートなテーマと裏腹に、映画的話法がやや複雑である点。主人公の心理状態、幻想、過去の回想、これらが同一表面上で「映像」として表現されるのだ。例えば、主人公の心の葛藤は主人公が二人現れて語り合うし、恐ろしい想像をした時にはそれがそのまま描かれ、(映画の中での)現実世界との境界線を意識させずに進行しちゃう。
ストレートなテーマにホラーの要素を取り入れるにはやむを得ない手法なのだが、映画を見慣れていない人は多少戸惑うかもしれない。
て、それほど難しいレベルじゃないかな。
 
まあ、なんにせよ、一人の青年のささやかな成長物語としてなかなかの佳作。こうした物語を、ホラー仕立てで作れるんだから、やっぱ映画は面白い。ヒットしないだろうけど。
 
ちなみに、主人公が乗る(ライディング)ことに死の恐怖を感じるローラーコースター「ブレット」とは、キング自身を轢いたトラックに乗っていた(事故の原因を作った)犬の名前でもある。
 
追記:DVD化されますた

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