ノーカントリー

http://www.nocountry.jp/
で、ヘタなゾンビより、人間のほうが何倍も怖いということを描いたのがこの作品。詳細触れたくないので短観しか書かないが、とにかくおかっぱ頭の殺人鬼こと、ハビエル・バルデムが怖すぎ。

映画としては、これはもう完璧なコーエン兄弟の世界。オスカー獲ったからって、ふつーのハリウッド大作と思って観ると、ラストに辛い思いをするので注意(笑)。カタルシスの欠片もないからね。デートには向かないかも。
まあ、コーエン兄弟の犯罪モノが好きな人には、まさしく決定版だろう。最高傑作の呼び名も納得。個人的には非常に満足できる作品であった。
あと、役者に関して言えば、ハビエル・バルデムばかりが話題になってるけど、ジョシュ・ブローリンが非常にかっこ良かった。『アメリカン・ギャングスター』の時以上の演技で魅せる。他、ウッディ・ハレルソンとトミー・リー・ジョーンズはいつも通りって感じ。特にトミー・リー・ジョーンズは、時々缶コーヒーのCMに見えて、思わず笑ってしまった。
 
15日公開。
 

ゾンビ・ハネムーン

http://www.zombiehoneymoon.com/

『幽霊VS宇宙人』ほどじゃないが、余りの(ホラーらしくない)展開にびっくりしたゾンビ映画。ちなみに『ゾンビ・ハネムーン/大カマのえじき』(1987)とは全く無関係の別作品。 
タイトル通り、ハネムーン先でゾンビに襲われた若夫婦の話で、旦那がゾンビに変身。ここまではゾンビ映画のセオリー通りに話が進むのだが、その先は完璧な恋愛ドラマのセオリー。ゾンビになっても妻を愛する旦那と、それを受け入れようとする妻。しかし旦那は手当たり次第に人間食っちゃうし、どんどん死人みたいな顔になってくし(当たり前だけど)で、若妻の「愛」がひたすら試され続ける。果たして愛の力は、ゾンビの本能に打ち勝てるのだろうか!?…みたいな。
 
ロメロ御大なら、(ゾンビと化した旦那に)真っ先に妻を食わせるだろうけど、まあゾンビ映画市場もそれだけ成熟しちゃったんだろうね。話としては結構面白いというか、解りやすい恋愛ドラマなんだけど、ゾンビ映画でここまで愛を語る理由がイマイチわかん。ゾンビ映画にそんな崇高なテーマは期待してないのよ、俺としては。ていうか、愛だの友情だのといった人間独自の関係性が、本能の趣くまま動き回る死者によって、いかに脆く崩れ去るかを描いたほうが怖いでしょ。
てことで、個人的には途中でバカらしく感じてきたのだが、若妻役のトレーシー・クーガンが意外と演技上手で、つい最後まで観てしまった。どことなく若い頃のシガニー・ウィーバーを彷彿させる美貌。結構気に入った。でもたぶん彼女がスターになることはない気もする。なんとなく。
 

幽霊VS宇宙人

http://yureivsuchujin.com/
てことで、久しぶりに観た試写がこれ。ナニゲに凄いでしょ、このタイトル。ありそうで無かったというか、誰もやらなかったというか。そもそも幽霊と宇宙人が、同じ次元でVersus可能なんだろうか?というか。
 
映画は二人の監督による2話オムニバスというか競作で、1話目のタイトルは『ロックハンター伊右衛もん』。 
ヤクザが資産家の娘との縁談を持ちかけられ、邪魔な妻子を殺してしまう。だが、妻は(「四谷怪談」の)お岩の生まれ変わりであり、幽霊となって復活。これまた宇宙人の生まれ変わりだったヤクザと痴話喧嘩を始めるのであった…てな内容(かなり要約)。
2話目は『略奪愛』というタイトルで、男の精気を吸い取るエロい女宇宙人と、売れない作曲家と、その婚約者であるイタコの三角関係を描いた話。ドロドロ(←文字通り)の展開を経て、最後は主人公の作曲家がエンディングテーマを高らかに歌いあげる。歌のタイトルは、「吸ってもいいじゃない」。
 
んー、なんだこれ(笑)。

監督は1話目が「呪怨」の清水崇、2話目が「怪談新耳袋」や「ケータイ刑事」の豊島圭介という、今や日本を代表するホラー監督たちだから、このメタフィクション的自己破壊は明らかに確信犯。一見ムチャな映画だが、実はかなりムチャクチャな映画なのだ(笑)。
…と見せかけて、1話目は鶴屋南北の「四谷怪談」をベースに、チンピラ映画の名作「竜二」のパロディがミックスされているし、2話目も「天使のはらわた・赤い教室」という名作ロマンポルノへのオマージュが込められている(らしい)。映画マニア向けというか、監督自身が楽しんで作っているのが伝わって、かなり愉快な作品となっている。ていうか個人的には楽しめた。
 
そもそもこの「幽霊VS宇宙人」というのは清水、豊島の両監督が始めた自主制作映画のシリーズで、今回初の劇場公開ながら、既に(シリーズ)三作目。マニアの間では「幻のシリーズ」(DVDになってるつーの)とされる貴重なシリーズなんだとか。知らんかったわ。ほんとかね。
 
二話を繋ぐ進行役に、なぜかハリセンボンの二人がショートコントを披露。「アブダクション」とか「キャトルミューティレーション」とか、マニアなSF用語を出しながらも、どんどんグダグダになっていく様が、素で笑える。
 
シネセゾン渋谷でレイト公開中。あ。ちなみにビジュアル(イラスト)担当は会田誠。なんか、そこだけ無駄に豪華な気がするのは俺だけか。
 

黒帯

男の勲章

http://kuro-obi.cinemacafe.net/
 
日本映画としても数少ない、極めてリアルな空手映画。伝統派の空手をかじった人間として、冒頭のシーンからシビれまくり(笑)。日本の格闘アクション映画としては、極めて上質な一本だ。
 
舞台は昭和七年。義龍(八木明人)、大観(中達也)、長英(鈴木ゆうじ)という三人の若者が、師・英賢(夏木陽介)の元、日々空手の鍛錬に明け暮れていた。
だが、英賢の突然の死により、継承の証である「黒帯」が残される。また、彼らの武術に目を付けた憲兵隊本部は、その力を憲兵隊の権威拡大及び憲兵隊隊長(大和田伸也)の私利私欲に利用すべく、三人に軍部合流を命ずるのだった。
 
「空手に先手なし、空手は争うためにあらず」…そう言い残した師の教えを頑なに守り、ひたすら修行に励む義龍。軍を利用し、己の強さを追求し始める大観。そして黒帯の継承者を見極めるべく、そんな二人を見守り続ける長英。真の強さを求め、葛藤し、それぞれ己の信じる道を突き進んでいく男たち。最後に「黒帯」を継承するのは一体誰なのか…てな話。
 
プロットとしては、ラストがちょっと不可解な点も含めて、まあ佳作止まりといった感じ。本当はめちゃめちゃ褒めたいけど、冷静に考えれば筋立てそのものが傑作とは言い難い。
 
だが、最初の修行シーンからして、おっ、この役者たちは空手経験者だなと思わせる(先にプレス読めば良かった)体幹の動きで、アクションシーンに関してはどこを切っても日本映画屈指の素晴らしさ!凄い!カッコいい!リアル!
 
と、ひたすら感激して観ていたが、エンドクレジットの名前を見て納得。大観役の中達也といえば、日本空手協会師範ではないか。俺が高校時代よく出稽古に行った、名門・目黒高校空手道部の出身(いまは監督だとか)で、ついには協会本部の師範にまで登りつめた達人。伝統空手界では有名な人だ。しかもプレスを確認したら、義龍役の八木明人も国際明武館剛柔流空手道連盟の館長だとか。なるほど道理であの迫力ある息吹きか。それぞれの流派を代表する二人だから、その動きはまさに本物。こりゃ凄いはずだわ。ていうか、この二人をよく映画出演させたな。ちなみに長英役の鈴木ゆうじは純粋な役者ながら、極真初段の腕前だとか。
 
いやあ、嬉しいなあ。日本からこういう映画が生まれるのを期待してたのよ、アクション映画ファンの一人として。空手の武道精神を描いた作品としては、実のところアメリカ映画の「ベスト・キッド」が一番出来が良かったくらいだからね。「これぞ日本!」という感じの空手映画が、本当に少なかった。本家日本が何でちゃんとした空手映画を作らないのかと不満だっただけに、まさに留飲の下がる思い。そういう意味では、本当によくやってくれた!という感じで、心から楽しめた。一般受けするかどうかは不明だけど、是非世界に発信して欲しい一本だ(モントリオール世界映画祭では既に正式招待作品として公開された)。
 
ちなみに近野成美吉野公佳という「エコエコアザラク」繋がりの二人がヒロイン役。
前半登場する白竜の殺陣も、なかなかキマってた。
ただ、ちょっと贅沢を言わせてもらえば、やたらと登場機会の多いあのヤクザ連にも、一人くらい名のある役者が欲しかったな。虎牙光揮とか出てたら更に締まったのに。あと、本作では本職の空手家が主役を演じたが、二人ともそのまま役者業を続けるのだろうか…。できれば続けて欲しいなあ。
 
10月13日銀座シネパトス他、順次全国で。
 
※追記
後から思ったけど、ここで描かれる空手は琉球空手の色合いが濃い、いわゆる伝統派の空手。ここ最近のフルコンタクト系を空手だと思っている人には、ちょっと異質に見えるかも。
ここで描かれる空手は、まさに「一撃必殺」を目指した当時の伝統的なそれ。いまや外国人にとっての「カラテ」のイメージに近いのかな。でも、伝統派空手を経験した人には理解してもらえると思う。

ダーウィン・アワード

http://darwin-award.jp/

アメリカに実在する「ダーウィン賞」をモチーフとしたコメディ。
 
ダーウィン賞」というのは、その年最も愚かな理由で死んだ人を、馬鹿な遺伝子を自ら消去したことで人類の進化に貢献した…として表彰する、なんともブラックな賞。
  
主人公マイケル(ジョセフ・ファインズ)は、この「ダーウィン賞」の研究者で、サンフランシスコ警察の優秀なプロファイラー。だが血を見ると卒倒するという致命的な弱点によって警察を追い出され、保険会社に再就職することに。その採用試験として全米各地の不可解な事件を調査するよう命じられたマイケルは、「ダーウィン賞」的発想で難事件を次々に解明していく。だが、やがて自分自身も「ダーウィン賞」(の受賞者)的存在であることに気づいて…てな話。
 
んー。映画としてせっかくの素材(ダーウィン賞)を活かし切れていないなあ…というのが個人的な感想。やっぱこの手の素材は、ハリウッドのメジャー系がストレートに扱うのは無理なんだろうね。
 
ちなみに調査の相棒シリ役にウィノナ・ライダー
他、ジュリエット・ルイス、デヴィッド・アークエット、メタリカなど意外と豪華な面々。
 
まあ、爆笑できるような出来ではないけど、どことなく「Xファイル」を思わせるロードムービーとして、そこそこ楽しめる一本。フィン・タイラー監督。
 
正月映画として、シネセゾン他。