ランド・オブ・プレンティ

http://landofplenty.jp/
 
国外で育ったアメリカ人少女ラナ(ミシェル・ウィリアムズ)は、亡き母の手紙を伯父に渡すため故郷アメリカへ帰ってくる。
伯父ポール(ジョン・ディール)は、ベトナム戦争でうけた心の傷を抱えながら、祖国アメリカを一人で守ろうとしていた。
アラブ系ホームレスの殺害現場に居合わせた二人は、それぞれの目的を持ってアメリカ横断の旅に出る。
 
ヴィム・ヴェンダースは大抵の場合、映画導入部から中盤までの描き方が非常に丁寧である。
おお!なんか巧い表現だな。本音で言えば、ヴェンダースの作品は中盤までが退屈なのよ。
パリ・テキサス」や「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は大好きだし、「ベルリン・天使の詩」だって嫌いじゃないが、それらも含めて序盤からテンポが良いなあと感じられる作品はほとんどない。まあ、それはあくまで俺の感じ方の問題なんだろうけど。
 
本作も、作品としての質の高さは序盤から伝わってきたものの、やたら睡魔が襲ってきて参った。一瞬気を失って、はっと飛び起きる繰り返しだったが、その間の物語がわからなくなるということはなかった。つまりそんだけ展開がゆっくりなの。
 
ところが、ヴェンダースお得意のロードムービーとなった中盤以降は、映画が急速に転がり始める。眠気なんか一気に覚めて、どんどん作品に引きずり込まれていく。このあたりがヴェンダースの真骨頂というか、「お、そろそろ来たぞ〜」となってからの吸引力がすごい。
 
この映画が描くのは、911以降のアメリカそのもの。
拡大し続ける貧富の差、利用される愛国心、戦争がもたらした傷、そして国家的パラノイア
ある意味で「華氏911」と対を成す作品といえるかもしれないな。(個人的には「チーム★アメリカ」を加えた三本立てで観たい気もするが)
作中、多くの星条旗がさりげなく出てくるが、それぞれが象徴する意味は、さまざまな形で変化していく。ドイツから自由を求めて移住してきた移民ヴェンダースにとって、現在のアメリカに対する複雑な感情が込められているのだろう。
ユネスコ賞を受賞した本作を、当のアメリカ国民がどう観たのか知りたいところ。911以降のアメリカを語る上で、重要な一作であることは間違いないと思うのだが。
 
低予算だけどかなりの佳作。アメリカに関心があり、前半の睡魔に打ち勝てる人には強く推奨。
 
追記:DVD化されますた