黒帯

男の勲章

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日本映画としても数少ない、極めてリアルな空手映画。伝統派の空手をかじった人間として、冒頭のシーンからシビれまくり(笑)。日本の格闘アクション映画としては、極めて上質な一本だ。
 
舞台は昭和七年。義龍(八木明人)、大観(中達也)、長英(鈴木ゆうじ)という三人の若者が、師・英賢(夏木陽介)の元、日々空手の鍛錬に明け暮れていた。
だが、英賢の突然の死により、継承の証である「黒帯」が残される。また、彼らの武術に目を付けた憲兵隊本部は、その力を憲兵隊の権威拡大及び憲兵隊隊長(大和田伸也)の私利私欲に利用すべく、三人に軍部合流を命ずるのだった。
 
「空手に先手なし、空手は争うためにあらず」…そう言い残した師の教えを頑なに守り、ひたすら修行に励む義龍。軍を利用し、己の強さを追求し始める大観。そして黒帯の継承者を見極めるべく、そんな二人を見守り続ける長英。真の強さを求め、葛藤し、それぞれ己の信じる道を突き進んでいく男たち。最後に「黒帯」を継承するのは一体誰なのか…てな話。
 
プロットとしては、ラストがちょっと不可解な点も含めて、まあ佳作止まりといった感じ。本当はめちゃめちゃ褒めたいけど、冷静に考えれば筋立てそのものが傑作とは言い難い。
 
だが、最初の修行シーンからして、おっ、この役者たちは空手経験者だなと思わせる(先にプレス読めば良かった)体幹の動きで、アクションシーンに関してはどこを切っても日本映画屈指の素晴らしさ!凄い!カッコいい!リアル!
 
と、ひたすら感激して観ていたが、エンドクレジットの名前を見て納得。大観役の中達也といえば、日本空手協会師範ではないか。俺が高校時代よく出稽古に行った、名門・目黒高校空手道部の出身(いまは監督だとか)で、ついには協会本部の師範にまで登りつめた達人。伝統空手界では有名な人だ。しかもプレスを確認したら、義龍役の八木明人も国際明武館剛柔流空手道連盟の館長だとか。なるほど道理であの迫力ある息吹きか。それぞれの流派を代表する二人だから、その動きはまさに本物。こりゃ凄いはずだわ。ていうか、この二人をよく映画出演させたな。ちなみに長英役の鈴木ゆうじは純粋な役者ながら、極真初段の腕前だとか。
 
いやあ、嬉しいなあ。日本からこういう映画が生まれるのを期待してたのよ、アクション映画ファンの一人として。空手の武道精神を描いた作品としては、実のところアメリカ映画の「ベスト・キッド」が一番出来が良かったくらいだからね。「これぞ日本!」という感じの空手映画が、本当に少なかった。本家日本が何でちゃんとした空手映画を作らないのかと不満だっただけに、まさに留飲の下がる思い。そういう意味では、本当によくやってくれた!という感じで、心から楽しめた。一般受けするかどうかは不明だけど、是非世界に発信して欲しい一本だ(モントリオール世界映画祭では既に正式招待作品として公開された)。
 
ちなみに近野成美吉野公佳という「エコエコアザラク」繋がりの二人がヒロイン役。
前半登場する白竜の殺陣も、なかなかキマってた。
ただ、ちょっと贅沢を言わせてもらえば、やたらと登場機会の多いあのヤクザ連にも、一人くらい名のある役者が欲しかったな。虎牙光揮とか出てたら更に締まったのに。あと、本作では本職の空手家が主役を演じたが、二人ともそのまま役者業を続けるのだろうか…。できれば続けて欲しいなあ。
 
10月13日銀座シネパトス他、順次全国で。
 
※追記
後から思ったけど、ここで描かれる空手は琉球空手の色合いが濃い、いわゆる伝統派の空手。ここ最近のフルコンタクト系を空手だと思っている人には、ちょっと異質に見えるかも。
ここで描かれる空手は、まさに「一撃必殺」を目指した当時の伝統的なそれ。いまや外国人にとっての「カラテ」のイメージに近いのかな。でも、伝統派空手を経験した人には理解してもらえると思う。